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2025/11/24

vol.17 住む人のために、”余白”を残すという選択

はじめに

落ち着いた話しぶりの奥に確かな芯があり、
お打ち合わせでも、お客様の言葉を丁寧に受けとめていく姿が印象的だった、コーディネーターの佐々木。

一見クールに見えつつ、ふとした笑顔やユーモアのある返しが魅力的で、
そのギャップに私は、「いつか話を聞いてみたい」と思っていました。

今回のインタビューは、そのささやかな願いが叶った時間。
コーディネーターとして大事にしている視点や、「住む人の好き」をどう形にしていくのか──
その考えをじっくりインタビューしました。

“創る”ことから始まった興味

「もともと“何かを創る”ことが好きだったんです。」
そう話し始めた佐々木。

学生時代はダンス部に所属し、衣装を自分たちで縫っていたとのこと。
布の手触りや、針の通る感覚。
「身にまとうもの」から「暮らす空間」へ、興味の先が少しずつ広がっていったといいます。

大学では、服飾・建築・プロダクトを横断的に学べる学部を選択。
「何かを創る仕事がしたい」という想いを手がかりに学びを重ねる中で、
気がつけば“空間をデザインする”という世界に惹かれていたそうです。

企画と建築、その狭間で見つけた場所

就職活動では、建築だけでなく、プロダクト企画や商品デザインの会社も受けていたといいます。
最初に内定をもらったのは企画系の会社。
けれど、ふと立ち止まって考えたときに、心が向いたのはやはり“空間”でした。

「今まで学んできたことをいちばん活かせるのは、建築の方かもしれない。
“創る”という感覚に、いちばん近い気がしたんです。」

そうして選んだのが、インテリアコーディネーターという仕事。
モノではなく、暮らしの中に美しさを描く道でした。

設計の骨格に、暮らしの温度を。

「インテリアコーディネーターの仕事を一言で言うなら、“設計士が描いた空間をよりよく具体的にカタチにする事”だと思います。」

設計が描く骨格の中で、素材や色のバランスを整える。
お客様の「こうしたい」という想いと、実現できる形の間で、最も心地よいバランスを探していくのが、彼女の仕事です。

「同じ素材でも、組み合わせ方で印象が全く変わるんです。最初から完璧を目指すより、“暮らしながら完成していく”ような余白を残したいと思っています。」

言葉の端々に、空間づくりに対する彼女ならではの視点が感じられました。

正直に伝えることが、信頼をつくる

「良くないものは、良くないと言うようにしています。」

迷いのない言葉。
けれど、その言い方は決して強くない。
相手を思いやるやわらかさを含んでいます。

「見た目や使い勝手の面でおすすめできないときは、ちゃんと理由を伝えます。
その上で、“こうすれば叶えられるかもしれません”と、別の提案をするようにしています。」

お客様の「好き」に寄り添いながらも、プロとして誠実であること。
そこに、佐々木らしい信頼の築き方がありました。

素材が生む、光と影の美しさ

「素材の中では、“塗り”の質感が特に好きなんです。」

漆喰、モルタル、ペイント。
わずかなムラや痕跡が残る素材。
光があたる角度や時間によって、空間の表情が変わる。

「クロスではなく、あえて塗装にする。
そんな小さな選択で、空間に陰影が生まれるんです。」

素材への向き合い方に、彼女の確かなこだわりが感じられました。

印象に残る家たち

これまで40件以上の家を担当してきた佐々木。
思い出に残る家を尋ねると、少し考えてから言葉を選びながら話してくれました。

「お客様に信用いただいて、形でも素材でも遊ばせていただいたお家や、陰影や照明の出方までお客様と一緒に考え抜いたお家などは、印象に残っていますね。」

またあるお家は、写真を見せながらこう話してくれました。

「家具や植栽の配置が絶妙で、引き渡し後に伺ったとき、“この家は、住むほどに美しくなっている””こう暮らしてほしいと思った形で暮らしてくれている”と感じたんです。」

日々の中で少しずつ深みを増していく美しさ。
それを見届けられることが、この仕事のいちばんの喜びなのだと感じました。

やりすぎないこと。余白を残すこと。― 空間を整える小さなヒント

「空間づくりで意識しているのは、“やりすぎないこと”。」

完成させすぎず、住む人が育てていける“余白”を残す。
その考えは、彼女の提案の随所に静かに息づいています。

「色は2〜3色くらいに絞ったほうが、きれいにまとまると思うんです。
似たようなグレーを何色も混ぜるより、
ベースを決めて、ワンポイントを添えるくらいがちょうどいい。
やっぱり“余白”があるほうが、光の入り方もきれいなんです。」

完璧に整えるのではなく、少しの“空き”を残しておく。
家具をすべて決めきらず、季節や気分で変えられる余白を残すことで、住む人自身の“好き”が自然と形になっていく。

「部屋を整えるときって、“足す”ことを考えがちなんですけど、
本当に大切なのは“引く”ことなんです。
飾りをひとつ減らしてみたり、素材や色を少し落ち着かせてみたり。
それだけで空間に呼吸が生まれて、光の入り方まで変わります。」

完璧を目指すのではなく、住む人の“好き”が育つ余白を残すこと。
それはお客様の暮らしを信じる姿勢でもあるのだと感じました。

仕事の外にある、遊び心

「ガチャガチャを集めたり、セルフネイルをしたりしています。」

小さな手の動きや色の組み合わせの中に、
彼女の“整える力”の原点が見える気がします。
「ネイルでは、スタンプのシリコン部分を使ってフレンチラインを描いたり、
少し変わったことを試すのが好きなんです。」

植物も欠かせない存在です。
多肉植物を中心に育てており、葉の形や質感によって空間の印象が変わることを日々感じているといいます。

仕事の外側にある小さな遊び心。
それが、彼女の中の“感性”を支えているのかもしれません。

“創る”ことの延長線にある、誠実な情熱。

衣装を縫っていた学生時代から、空間を整える今まで。
“創る”ということを、誠実に、そして少しのユーモアをもって続けてきた佐々木。

きっちりと整えすぎず、少しの遊びを残すように。

その誠実な手しごとが、ひとつひとつの暮らしを豊かにしていくように思います。

次回のコンテンツは12/8です。どうぞお楽しみに。