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2026/03/23

vol.25 「見えないところで家を整える、積算という仕事」

住まいの美しさは、完成した空間の中だけに宿るものではありません。
図面の線を読み、工事の流れを想像し、まだ形になっていない住まいを、数字の面から確かに支えていく。
そんな仕事があります。

ひかり工務店工務部で「積算」という仕事を担う棚橋。
戸建てリノベーションを中心に、図面を見ながら数量を拾い、必要な工事を見極め、各業者へ見積もりを依頼し、それらをひとつの金額としてまとめています。
一見すると、数字を扱う実務的な仕事に思えるかもしれません。
けれどその内側には、設計の意図を汲み取り、現場の動きを想像し、住まいづくりの実現性を丁寧に整えていく繊細な判断があります。

表に立つ仕事ではないからこそ、その役割は見えにくい。
けれど実は、住まいの自由度や挑戦を支えている、大切な仕事のひとつでした。

現場を知る人が、数字をつくる

棚橋は、もともと現場監督として家づくりに携わっていました。
現場でしか得られない感覚や、工事の流れ、職人さんとのやり取り。
その経験は、今の積算の仕事にも深くつながっています。

現場監督という仕事は、住まいを形にしていく最前線の役割です。
一方で、家づくりにはさまざまな工程があり、その一つひとつを支えるためには、それぞれに異なる視点と力が求められます。

棚橋は、現場に関わるなかで、工事中のお金の流れや実行予算の管理にも触れてきました。
そして次第に、そうした部分により深く関わることで、家づくりを別の角度から支えられるのではないかと考えるようになったそうです。

ひかり工務店にいたい。
工事部にも携わっていたい。
その気持ちは変わらないまま、自分の得意なことや活かせる経験を見つめた先に、今の役割がありました。

特に戸建てリノベーションは、新築とはまた違った難しさがあります。

図面だけでは読みきれないこと、解体して初めて見えてくること、現場の状況によって変わる工事内容。
だからこそ棚橋は、必要に応じて現地へ足を運び、自分の目で確かめます。

床下の状況、設備の納まり、写真だけではつかめない空気感。

そうした現場の記憶を持っているからこそ、ただ計算するのではなく、実際の工事へつながる見積もりを組み立てることができるのです。

数字の前に、まず現場がある。
その順番を知っていることが、棚橋の積算の土台になっているように感じました。

“できる”を見極める、見えない判断

棚橋の言葉のなかで印象的だったのは、
「見積もりを出したということは、施工できるという判断でもある」というものでした。

ひかり工務店の家づくりには、自由度があります。
性能・価格・デザインのバランスを大切にしながら、一邸ごとの想いや暮らし方に寄り添って、できる限りかたちにしていく。
そのなかでは、ときに新しい納まりや、前例のないような工夫が求められることもあります。

そんなとき積算は、ただ金額を出すだけの役割ではありません。

本当に施工できるのか。
どの業者に依頼するのがよいのか。
現場が始まってから困ることはないか。
設計の意図をどうすれば無理なく現場へつなげられるか。

そうしたことを一つひとつ考えながら、数字の裏側にある現実まで含めて判断していきます。

見積もりが成立するということは、家づくりが一歩前へ進めるということ。
その一歩を確かなものにするために、棚橋は必要に応じて業者へ確認を取り、調整をし、できるだけ曖昧さを残さないようにしています。

住まいの自由さや面白さは、目に見えるデザインだけでは成り立ちません。
その挑戦を現実へつなぐ判断があってこそ、初めて住まいは形になっていく。
積算は、その大切な境目に立つ仕事なのだと思います。

やわらかく伝える、それも仕事のひとつ

仕事で大切にしていることを聞くと、棚橋は「周りの人が笑顔でいてほしい」と話してくれました。
その言葉は、積算という仕事の印象をやわらかく変えてくれるものでした。

お金にまつわる話は、ときに緊張感を伴います。
見積もりの不足や、金額の差異、調整が必要な点。
そうした内容を設計やコーディネーター、工事部のメンバーに伝える場面も少なくありません。
けれど、それは誰かを責めるためではなく、次をよりよくするために必要な共有です。

だからこそ棚橋は、伝え方を大切にしています。

できるだけ明るく、やわらかく、必要なことがまっすぐ届くように。
ただ正しいことを言うだけではなく、その場の空気や相手の受け取り方まで考えること。

それもまた、チームでものづくりをするうえで欠かせない力なのだと感じます。

納期を守ること。
誠実に向き合うこと。
そして、周りの人が前向きに働ける関わり方をすること。

目の前の数字を整えるだけでなく、その先にいる人たちの仕事まで見つめている。
棚橋の仕事には、そんな気配りがありました。

大らかさと、数字のあいだで

周囲からは「大らか」と言われることもあるそうです。
けれどその一方で、数字を扱うことは得意。
きっちりしすぎない軽やかさと、数字に向き合う真面目さ。
その両方が、棚橋らしさとして同居しています。

現場監督時代とは、また違うやりがいも感じているといいます。
最前線で引っ張る役割から、今は誰かの仕事を支える側へ。
頼られることの嬉しさや、自分の仕事が家づくりの流れを支えている感覚は、積算ならではの面白さなのかもしれません。

また、少し意外だったのは、将来挑戦してみたいこととして挙がった「お金にまつわる発信」。
YouTuberという言葉が冗談まじりに出てきた場面もありましたが、その根底にあるのは、数字や暮らしに関わることを、もっと身近に伝えてみたいという気持ちなのだと思います。

仕事でもプライベートでも、無理に大きな目標を掲げるより、まずは目の前のことに誠実に向き合う。
そんな“今をちゃんと生きる”感覚もまた、棚橋の言葉の端々ににじんでいました。

住まいの裏側を、確かに支える

ひかり工務店の家づくりは、目に見える美しさの裏側で、たくさんの人の仕事が重なり合って成り立っています。

設計が描くこと。現場が形にすること。
そして積算が、そのあいだを数字でつなぐこと。

棚橋にとって積算とは、単に金額をまとめる仕事ではありません。
設計の意図を読み取り、現場で起こることを想像し、実現できる形へと整えていく仕事です。

まだ形のない住まいに対して、「この家は、こうすれば進められる」と輪郭を与えていく。
その役割は、決して派手ではないけれど、家づくりにとって欠かせないものです。

完成した住まいを見るとき、私たちはどうしても、空間の広がりや素材の美しさに目を奪われます。
けれど、その背景には、見えないところで数字を整え、工事の可能性を確かめ、ひとつずつ現実へつないでいる人がいます。

「見えないところで、家を整える。」

その仕事があるからこそ、住まいは安心して、のびやかに、美しく形になっていく。
棚橋の姿からは、見えないところで住まいを支える仕事の重みが感じられました。

次回のコンテンツは4/6(月)です。どうぞお楽しみに!