2026/04/13
vol.27 若き才能に、光をあてるために。― U30設計コンペ ―
建築の世界では、「若手」と呼ばれる時間がとても長く続きます。
特に設計という分野においては、40代でもなお若手と称されることも少なくありません。
知識と経験が積み重なっていく一方で、その途中にある時間は、決して華やかなものばかりではないのが現実です。
今回、私たちが開催したU30設計コンペは、そんな若き設計者たちに光をあてるための試みでした。
本記事では、当日の審査を務めた弊社統括マネージャーの原田、設計部マネージャーの武本に加え、
PASSIVE DESIGN COME HOME代表の木村様、Aonosumika合同会社の兼本様とともに行った審査を振り返りながら、コンペに込めた想いをお届けいたします。

評価されない時間に、居場所をつくる
まずは、今回のコンペ開催の背景について、原田に話を聞きました。
「設計の世界では、若いうちはなかなか評価される機会が少ないんです。設計事務所にいると、徐々に知識や経験は身についていくのですが、お客様から直接感謝されたり、社会から評価されたりする機会は限られています。」
既存のコンペは数多く存在しますが、
そこでは経験豊富な設計者と若手が同じ土俵で競うことになります。
「若手にとっては、どうしてもハンデがありますよね。だからこそ、同世代同士で純粋に競い合える場をつくりたいと思いました。」
その根底にあるのは、シンプルな想いでした。「若手のクリエイターを応援したい、という気持ちです。コンペで賞を取ることが、自信にもつながりますし、設計者同士のつながりが生まれる場にもなればと思いました。」
審査員としての眼差し
今回の審査を支えたのは、それぞれ異なる領域で経験を重ねてきた設計者たちでした。
ひかり工務店統括マネージャーの原田は、住宅・リノベーション・店舗といった幅広い設計に携わりながら、設計と実務の両面を横断してきました。
敷地や環境を丁寧に読み解き、 そこから導かれるかたちを組み立てていく設計を得意としています。 2022年にはLIXILメンバーズコンテスト準グランプリを受賞。
経験に裏打ちされた視点で、建築の本質を捉え続けています。
ひかり工務店設計部マネージャーの武本は、京都建築大学校を卒業後、設計・営業・積算・現場監督まで、建築に関わる一連の業務を一貫して経験してきました。
2018年にひかり工務店へ入社して以降は、その実務経験を活かしながら、敷地条件や数値的な裏付けを大切にし、温熱環境や日射といった要素にも配慮した設計を行っています。


審査にご協力いただいた PASSIVE DESIGN COME HOME代表の木村様は、京都芸術大学大学院修了後、パッシブデザインを軸に設計活動を開始。2018年に同社を設立されました。
現在は住宅設計に加え、全国の工務店への事業支援や勉強会なども行いながら、環境と建築を結びつける考え方を広く発信されています。
同じく、審査にご協力いただいたAonosumika合同会社の兼本様は、筑波大学で景観を学び、京都で伝統建築や庭の思想に触れたのち独立。
普段からひかり工務店の住宅における植栽にも関わり、建築と庭を一体で捉える視点を実務の中で積み重ねてこられました。
光・緑・人の営みのちょうどいいバランスを探る造園家として、自然と調和した、落ち着きのある空間づくりを実践されています。
理想と現実。
思想と実装。
自然と建築。
それぞれ異なる視点が交差することで、
今回のコンペは、建築そのものを多角的に見つめ直す場となっていきました。
「心ある建築」を、どう形にするか
今回のテーマは、「心ある建築」。
この言葉は、私たちが刷新した理念
「心ある建築で、人と地域の未来に光を灯す」
から生まれたものです。
あえてこのテーマを掲げたのは、建築の本質に立ち返るためでした。
ひとつの答えに収まらない言葉だからこそ、
それぞれの中にある「心ある建築」を、かたちにしてほしいと考えました。
応募総数45作品。その中から8作品が決勝へ進出しました。
並んだ提案はどれも、同じテーマから生まれたとは思えないほど多様でした。


社会問題に目を向けたもの。
風土や環境に根ざしたもの。
人の感情や暮らしに寄り添うもの。
それぞれが、「心」とは何かを問い、
それを建築として表現しようとしていました。
その中で問われたのは、コンセプトの美しさではなく、それをどれだけ“建築として成立させているか”でした。
原田はこう語ります。
「それぞれ、コンセプトとして美しくすることはできるんです。建築としても美しくすることはできる。でも、それを結びつけるのが一番難しい。」
思想と形。そのあいだにある距離を、どれだけ埋められているか。
その一点が、今回の審査における大きな軸となっていました。
白熱したプレゼンテーション、その場にあったもの
当日の会場は、静かな熱気で溢れていました。
机の上に並ぶ模型。
スクリーンに映し出される映像。
そして、自らの言葉で語られる建築。
発表の形式ひとつを取っても、その人の設計に対する姿勢が表れていました。
ある参加者は、細部まで作り込まれた模型によって空間の質を伝え、ある参加者は、動画を用いて時間の流れや体験を描き出します。
図面だけでは伝えきれないものを、どう届けるのか。その試行錯誤までもが、設計の一部となっていました。
質疑応答では、審査員から鋭い問いが投げかけられます。
コンセプトの立て方はどうか。
それは建築として成立しているのか。
環境や社会と、どのようにつながっているのか。
問いは決して一方通行ではありませんでした。


原田はこう語ります。
「コンペって、答えを出す場でもあるんですけど、同時に“問いを投げかける場”でもあると思っていて。自分たちはこう考えるんですけど、どう思いますか?っていう提案なんですよね。」
完成された答えではなく、
自分なりの考えを社会に向けて差し出すこと。
その姿勢が、プレゼンテーションの随所に現れていました。
そして武本は、別の角度からその場を見ていました。
「インパクトがあるだけではダメで、ちゃんとテーマにつながっているかどうかを見ていました。結果だけじゃなくて、そこに至るまでの過程やストーリーも大事だと思っています。」
どのような問いから出発し、どんな思考を経て、その建築にたどり着いたのか。
その“過程”が伴っているかどうかで、提案の重みは大きく変わっていきます。
言葉に詰まりながらも、自分の意図を伝えようとする姿。迷いながらも、思考を言葉にしようとする姿。
そこには、うまく見せるための発表ではなく、
「自分はこう考える」という切実な意志がありました。
それぞれのプレゼンは、ひとつの“提案”であり、 同時に、建築を通して社会と対話しようとする試みでもありました。
評価されるための場であると同時に、
考えを投げかけ、受け取るための場でもある。
その白熱したやり取りが、このコンペをより深いものへと押し上げていました。


ひとつの答えとして選ばれた建築
そうした多様な提案の中から、最優秀賞に選ばれた作品は、積み重ねられた思考が、そのまま説得力として現れているような提案でした。
原田は、その印象をこう振り返ります。
「“心ある建築”を実現するための構造が、すごく整理されていたんです。なぜこの建築になるのかが、ちゃんと説明できる提案でした。」
思想と形が無理なく結びつき、
その関係性そのものが設計されている。
コンセプトが建築に翻訳され、
建築がまたコンセプトを裏付けている。
その一つひとつの積み重ねが、提案全体に強さを与えていました。
武本もまた、時間軸の視点からこう語ります。
「インパクトだけではなく、テーマとのつながり、そしてその先に何が残るのか。建築は、建てて終わりではありません。」
住宅は、ときに“負の遺産”にもなり得る存在です。 使われなくなった建物や、時代に取り残された空間が、そのまま残り続けてしまうことも少なくありません。
だからこそ、その中で何を生み出し、どう残していくのか。
建築には、その先の時間まで見据えた視点が求められます。
「最優秀賞の作品には、それがありました。
建築がどう社会に残っていくのか、設計士の未来まで見える提案でした。」
それは、完成された“正解”というよりも、
この問いに対する、ひとつの誠実な答えでした。
そして同時に、これからの建築のあり方を、示しているようにも感じられました。


挑戦してくれたすべての人へ
今回のコンペを通して感じたのは、
作品の完成度だけではなく、そこに向き合う姿勢そのものでした。
日々の業務の中で時間を捻出し、自分の思考と向き合い、ひとつの提案としてまとめ上げる。
そのプロセスは決して簡単なものではなく、
それ自体がひとつの挑戦だったと思います。
原田はこう振り返ります。
「正直、ここまで多くの方に集まっていただけるとは思っていませんでした。コンペを盛り上げていただいて、本当にありがとうございます。
U30というのは、建築家にとってしんどい時期でもあると思っています。その中で、仕事をしながらこれだけのものをつくり上げてきたこと自体が、本当にすごいことです。」
懇親会では、参加者同士が自然と語り合い、
悩みや葛藤を共有する姿が見られました。
競い合いながらも、どこかで支え合う。
同じ時代を生きる設計者同士の、連帯がそこにはありました。
「この場をつくってよかったと、心から思いました。」
武本もまた、参加者への想いをこう語ります。
「どれくらいの方が応募してくださるのか、不安もありました。
社会人として働きながら参加するのは、本当に大変だったと思います。
日々の仕事では、どうしても会社のルールや利益の中で動くことが多くなります。だからこそ、この場を、自分の価値を発散する場として使っていただけたら嬉しいです。」
制約の中で積み上げてきたものを、自由にぶつける。
その経験は、これからの設計に必ずつながっていきます。


次の世代へ — 学生コンペの開催に向けて
今回のU30設計コンペを通して、
私たちはもうひとつの可能性を強く感じていました。
それは、これから建築の世界に踏み出そうとする、学生たちの存在です。
実務の中で培われる設計とはまた違い、学生だからこそ持てる視点があります。
まだ制約に縛られていない発想。
常識にとらわれない問いの立て方。
純粋に「建築とは何か」に向き合う力。
そこには、完成度とは異なる価値があります。
原田はこう語ります。
「学生の方には、実現性を求めすぎる必要はないと思っています。
それよりも、自分が何を考え、どう捉えているのか。その思考そのものを、建築として表現してほしいです。」
武本もまた、今回のU30との違いに触れます。
「社会人になると、どうしても現実的な制約の中で設計することが増えていきます。だからこそ学生のコンペでは、もっと可能性に振り切ってほしいですね。」
社会に出る一歩手前だからこそできる挑戦。
まだ形になりきっていないからこそ持てる強さ。
このコンペが、未来の設計者たちにとっての“最初の一歩”となるように。
そして、自分の考えが社会に通用するのかを試す、ひとつの機会として。
本コンペの詳細は、以下の通りです。
・エントリー締切:5月17日(日)
・作品提出締め切り:6月30日(木)
・最終選考:8月下旬予定


建築の未来に、光を灯すということ
今回のコンペを通して見えてきたのは、
建築が単なる「かたち」ではないということでした。
そこには、設計者一人ひとりの視点があり、
社会に対する問いがあり、そして、人に寄り添おうとする意志がありました。
“心ある建築”とは、特別なものではありません。それはきっと、目の前の人や場所に対して、どれだけ誠実に向き合えるかという姿勢の中に宿るものです。
今回集まった45の提案は、その問いに対する、45通りの応答でした。
正解はひとつではない。 だからこそ、建築は面白く、そして奥深いものになります。
「心ある建築で、人と地域の未来に光を灯す」
この理念は、私たち自身の指針であると同時に、これからの建築に対するひとつの願いでもあります。
この場で生まれたつながりや熱量を、一過性のものにしないために。
そして、これから挑戦しようとする誰かの背中を押すために。
私たちはこれからも、場をつくり続けます。
建築の未来は、いま挑戦している誰かの中にある、その小さな光を、確かに灯していくために。
次回のコンテンツは4/27(月)です。お楽しみに。

