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2026/06/22

vol.32 住まいづくりの仕事、その原点をたどる

ふと心に残る言葉があります。
何年経っても忘れられない風景があります。
理由はうまく説明できないけれど、なぜか好きな場所があります。

そうした小さな積み重ねは、その人の価値観になり、ものの見方になり、やがて仕事にも表れていきます。

今回話を聞いたのは、マンションリノベーション営業の竹下、新築設計の東、リノベーション設計の村上。
それぞれ異なる立場で住まいづくりに携わる3人に、「人生や仕事の中で影響を受けたもの」について聞きました。

一つの問いから始まった対談でしたが、話を聞いているうちに見えてきたのは、建築や営業という仕事の話だけではありませんでした。

その前にある「その人らしさ」や、今の仕事につながる原風景。

3人の話をたどりながら、それぞれの住まいづくりの原点を探っていきます。


インスピレーションの入り口

まず聞いたのは、「普段、何からインスピレーションを受けていますか?」という質問でした。
3人の答えは、綺麗に分かれます。

村上は、SNSや雑誌で建築を見ることが多いと話します。
通勤時間は片道1時間ほど。移動中に建築の事例や空間写真を見ることが習慣になっているそうです。

「全体を見るというより、『ここいいな』と思った部分だけを持ち帰ることが多いです。」

空間の見せ方や素材の使い方。光の入り方や空気感。
心に引っかかった要素だけを抜き出し、自分なりの解釈に変えて表現していく。

「自分ならこうするかな、みたいなことはよく考えています。」

ただ、その視点は建築そのものに向いているわけではありません。
村上が見ているのはいつも「その先にいる人」のようでした。

「『仕事』だと思って図面を書いていないんです。お客様のことを考えながら描いていたら、楽しくて、気がついたら時間が過ぎている感じですね。」

空間を考えることも、素材を考えることも、すべてはそこで暮らす人を想像するため。
その言葉に続くように、東もこんな話をしてくれました。

「最近は『お客さんが見ているもの』を見ることが多いですね。」

例えばSNSで流れてくる「お家づくりの後悔ポイント」「住んでみて分かった不便さ」「やめておけばよかった設備」。

以前よりも、お客様がどんな情報に触れ、何を気にしているのかを意識するようになったそうです。

「プランを描くときに考える時も、まず思い浮かべるのはお客さんですね。この人だったらこういう暮らしが楽しそうだな、とか。」

そう話す東は、現在一級建築士の資格取得に向けて仕事と並行しながら資格学校にも通っています。
平日は仕事を終えてから学校へ。休日も勉強に時間を使うことが多いそうです。

「大変ですけど、ずっとこの仕事を続けていくために、必要だと思っているんです。」

お客様にとっては、一生に一度かもしれない家づくり。
だからこそ、もっと知識を身につけたい。もっと良い提案ができるようになりたい。
そんな想いが、忙しい日々の原動力になっています。

そう話したあと、東はこんなことを話してくれました。

「もっと引き出しを増やしたいんです。」

お客様によって、暮らし方も価値観も違います。

だからこそ、決まった答えを当てはめるのではなく、その人らしい住まいを提案できる設計士でありたい。

「住宅って、自分の作品じゃないと思うんです。」

住まい手がいて、暮らしがある。
その当たり前のことを大切にしたいからこそ、今も仕事と並行して学び続けています。

設計者としての考えを持ちながらも、主役はあくまで住まい手。 東の言葉を聞いていると、住宅設計という仕事の奥深さが見えた気がしました。




そんな二人に対して、竹下の答えはまた違いました。

「私は本から得る言葉ですね。」

営業はコミュニケーションを扱う仕事。
お客様との会話も、設計への引き継ぎも、すべて言葉で行われます。
だからこそ、言葉を大切にしていると話します。

「同じ内容でも、伝え方ひとつで相手の受け取り方って変わるじゃないですか。」

お客様の気持ちを汲み取ること。自分の考えを伝えること。
営業という仕事は、その繰り返しです。

「自分の立場で何が提供できるんだろうって考えた時に、やっぱり言葉の力って大きいなと思うんです。」

仕事柄、お客様の多くは年上の方です。
人生経験も、自分よりずっと豊富な方ばかり。
そんな相手に何を伝えられるのか。何を聞けるのか。
その答えを探すように、本を読んできたと話します。

設計が空間で想いを形にする仕事だとしたら、営業は言葉で人と人をつなぐ仕事なのかもしれません。

同じ住まいづくりに携わっていても、インスピレーションの入口はそれぞれ違う。けれど、その先にいるのはやはりお客様でした。

美しい瞬間を、かき集めるように

続いて聞いたのは、「これまでの人生の中で、一番影響を受けたことや、今の自分につながっていると感じるものはありますか?」という質問です。

少し考え込む3人の中で、最初に口を開いたのは竹下でした。

「私は昔から、頭の中にくしゃくしゃに丸めた紙みたいなものがあるんです。」

竹下がそう話し始めた時、東も村上も、インタビュアーの私も、思わず聞き入っていました。

昔から、自分が何を感じているのかを言葉にするのが得意ではなかったという竹下。
なんとなくモヤモヤする。けれど、その正体が分からない。
そんな時、本を読むと不思議と整理される。

「あ、これが今の自分の気持ちなんだ。」

そう思える瞬間があるといいます。
知識を増やすためというより、自分自身を理解するために。

そんな竹下が影響を受けた、好きな本の中の言葉があります。

「生きることとは、美しい瞬間をかき集めること」
ーそれでも光に手を伸ばす/Payao(著) 

その言葉を読んだ時、自分の中で何かがつながった感覚があったそうです。


仕事をしている父親の横顔。
横断歩道を渡る人たちの影。
誰かが楽しそうに話している時間。

「『人が幸せそうにしている姿を見るのが好きなんだ』『これが私の生きる軸なんだ』って気がついたんです。」

その一言に竹下らしさが詰まっていました。
実は竹下が住宅業界を志した理由も、人への興味から始まっています。

鹿児島出身の竹下は、大学で地方創生を学んでいました。
地域のお祭りに関わったり、古民家改修の活動に参加したり。
人が集まる場所や、人が喜ぶ場面をつくることが好きだったそうです。

そんな中で興味を持ったのが住宅業界でした。

家族が集まる場所。暮らしの土台になる場所。
そこに関わる仕事がしたいと思うようになります。
そして、ひかり工務店と出会いました。

「家づくりのために今までの楽しみを我慢するのではなく、その人らしい暮らしそのものを大切にした家づくりを提供する」

そのひかり工務店の理念や考え方に触れた時、「ここで働きたい」と思ったそうです。

鹿児島から大阪へ。決して近い距離ではありません。

それでも迷いなく飛び込んだ背景には、自分の価値観と重なるものがあったからでした。

心地よさの正体を探して

東が建築に興味を持った原点は、祖父の存在でした。
祖父は設備設計の仕事をしており、事務所には図面が山のように積まれていたそうです。

幼い頃の東は、その図面の裏紙によく落書きをしていました。

「今思えば、それが最初かもしれないですね。」

自然と建築を身近に感じながら育ち、大学でも建築を学びました。
けれど、今振り返っても「絶対に建築が好きだった」と言い切れるわけではないと話します。
不思議なくらい自然に、この道に進んでいた。
そんな感覚だったそうです。

そんな東が人生で強く影響を受けた場所があります。
香川県豊島にある、豊島美術館です。

「気づいたら2〜3時間そこにいたんです。」

そこには大きな展示があるわけではありません。
ただ光が入り、風が抜け、水の音が響く空間。それだけです。

けれど東は、その場所からなかなか動けませんでした。

「普段建築を見に行っても、写真を撮って次へ行くことが多いんです。でもここだけは違いました。そんな感覚になったのは初めてだったんです。」


ただそこにいる。何もしない。それなのに心地いい。
その体験が、今の設計につながっています。

効率だけを考えれば必要のない場所。
少し遠回りになるアプローチ。立ち止まって空を見上げる余白。

「便利さももちろん大事ですが、それだけじゃないと思うんです。暮らしていく中で、ふと『この場所が好きだな』と思える瞬間があったら、それってすごく豊かなことだと思うんです。」

実際に担当した住まいでも、そうした考え方を少しずつ取り入れているそうです。

その話を聞きながら竹下が言いました。

「お客様は、東さんの設計のそういうところが好きなのかもしれないですね。」

すると東も頷きます。
「そうだったら嬉しいですね。」

設計者としての想いが、暮らしの中で静かに伝わっていく。
そんな住まいづくりを目指しているように感じました。

表現することをやめなかった人

村上は、大学で建築を学び、新卒で住宅会社へ就職。
けれどその後、一度建築の世界を離れています。

選んだのはアパレルでした。

自分でブランドを立ち上げ、企画、デザイン、イラスト、撮影まで一人で行う日々。

「自分の表現を世の中に届けたかったんです。」

東も竹下も、その話には驚いていました。
実際にブランドのSNSを見せてもらいながら、「めちゃくちゃかっこいいですね!」と盛り上がる場面もありました。

建築からアパレルへ。
一見すると全く違うように見えます。
けれど村上自身は、あまり違いを感じていないそうです。

「結局、何かを表現したかったんだと思います。」

誰かの表現に触れる。
心に残ったものを自分なりに解釈する。
そして、自分の表現として形にする。
最初の質問で話していたインプットの方法も、当時から変わっていません。

そんな村上の原風景には、屋久島があります。
祖母の故郷であり、幼い頃から何度も訪れていた場所です。

自然の中で過ごす時間。何もしなくていい時間。
ただ風の音を聞いているだけの時間。
その心地よさが、今も自分の中に残っていると話します。

そして出会ったのが、ひかり工務店でした。

ひかり工務店が手がける住まいの、植栽の取り入れ方。
自然と交わり合う空間のつくり方。
屋久島でのあの時間を思い出すような、写真越しにも伝わる心地よさ。

「なんでこんなに気持ちいいんだろうって思ったんです。」

もっと知りたい。もっと学びたい。
そう思ったことがひかり工務店への入社のきっかけでした。

そして今、村上はこう話します。

「今思うと、一番影響を受けているのはひかり工務店かもしれないです。」

そう話したあと、少し考えて続けました。

「今が、人生が変わっている途中なのかなって思っています。」

その言葉がとても印象に残りました。
遠回りに見える道も、振り返ればすべて今につながっている。
村上の話を聞いていると、そんなことを思いました。

それぞれの原点、その先の住まいづくり

人の幸せそうな姿に心を動かされる竹下。
心地よさの理由を探し続け、住まい手らしい暮らしを追い求める東。
表現することを手放さず、遠回りをしながら建築へ戻ってきた村上。

見ているものは違います。
歩いてきた道も違います。
けれど3人に共通していたのは、今も学び続けていることでした。

もっと言葉を知りたい。
もっと引き出しを増やしたい。
もっと建築を学びたい。

完成ではなく、途中だからこそ見える景色があります。
誰かの言葉。忘れられない風景。心地よいと感じた空間。

そうした出会いの積み重ねが、その人らしい住まいづくりにつながっていく。

今回の対談を通して見えたのは、設計や営業という肩書きの前にある、一人ひとりの人柄でした。

そして、その人柄こそが、住まいづくりの土台になっているのだと感じます。

次回のコンテンツは7/13(月)です!どうぞお楽しみに。