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2025/05/19

vol.4 暮らしと向き合う人の、静かなこだわりとベストバイ

住宅は単なる建物ではなく、そこで紡がれる暮らしそのものを作り上げるもの。

そのため、家づくりに携わるスタッフたちは、お客様の人生に寄り添いながら、日々の暮らしに欠かせないアイテムにも静かで深いこだわりを持っています。

今回は、インテリアコーディネーターや現場監督として活躍するスタッフ3名に焦点を当て、彼らが「大切にしているもの」や「選んだ理由」、そしてそれがどのように「暮らしに変化をもたらしたのか」を語ってもらいました。

スタッフ一人ひとりの「ベストバイ」を通じて、彼らの暮らしに対する深い思いを感じていただけたらと思います。

今回インタビューに答えてくれたのは、インテリアコーディネーターの足立(右)、現場監督の野田(左)、そして寺下(中央)です。

野田(現場監督:新築・リノベーション)

お家づくりはお客様にとって「一生に一度の大イベント」。

モノではなく“コト”を届けることを大切に、工事の工程もひとつのイベントとして向き合っています。現場での何気ない瞬間にも価値を見出し、そのひとつひとつの積み重ねが、お客様にとって特別な体験につながると考えています。

足立(インテリアコーディネーター)

お打ち合わせでは毎回全力でお客様の期待を超える提案を心がけています。

アイデアに悩むこともありますが、その度にオフィスをぐるっと回って気分転換したりして、新しい視点を見つけるようにしています。自分の知識を最大限活かして、心からのアドバイスをすることを意識しています。

寺下(現場監督:新築・リノベーション)

自分のスタイルを押し付けるのではなく、お客様の空気感に合わせて寄り添うことを大切にしています。

特にリノベーションは「わからないこと」も多いからこそ、一緒に悩み、楽しみながら進める姿勢を意識しています。しっかり決めたい方も、柔軟に進めたい方もいるので、臨機応変に動いて、“お客様と一緒につくっていく”という気持ちを大事にしています。



あなたの暮らしを豊かにしたベストバイは?

「“いい靴は、いい場所に連れていってくれる”という言葉がありますが、まさにそれを体現するような一足。」

 – KLEMAN(クレマン)のローファー(約5〜6年前・古着屋で購入)現場監督:寺下

「たまたま、ふらっと立ち寄った古着屋さんで出会ったんです」と語るのは、現場監督の寺下

手に取ったのは、フランスの老舗シューズメーカー〈KLEMAN(クレマン)〉のローファー。すでに廃盤となっていたデッドストック品で、お店の方いわく「フランスの倉庫に眠っていた未使用品を直接仕入れてきた」とのこと。

長く倉庫に保管されていた一足だったそうです。

「実は、それまで革靴にあまり興味がなくて…。お手入れが大変そうという印象もあり、なかなか手が出せなかったんです」と寺下は振り返ります。ところが、このローファーを履いた瞬間、その印象は一変。

「以前から別モデルのクレマンを持っていたのですが、それとはまったく違う履き心地で驚きました。“機能美ってこういうことか”と、実感した一足でした」

このモデルは、当時のフランスで行政機関の配達員も履いていたそうで、ガタガタの石畳の上でも耐えられるような設計になっているのだとか。独特のソール形状も相まって、タフさとデザイン性の両立が魅力です。

「この靴と出会ってから、物に対する向き合い方も変わりました」と寺下は続けます。

それまでは、似たようなアイテムをつい複数持ってしまう“ストック癖”があったそうですが、「“これがあればいい”と思えるようになってからは、自然と持ち物もシンプルになりました」。

“いい靴は、いい場所に連れていってくれる”という言葉がありますが、まさにそれを体現するような一足。

「この靴を履くと、自然と姿勢を意識しますし、オンとオフの気持ちの切り替えにもなっています。今でも、この靴が主役になるように服のコーディネートを考えるほど、自分にとって大切な存在になりました」。

「色の変化も、愛着も。暮らしの中心にある“一枚板”のテーブルです」

 – センダン材のローテーブル(2024年・メルカリの材木屋で購入)コーディネーター:足立

「一枚板のテーブルがずっと欲しくて、去年ようやく出会えたんです」。
そう語るのは、コーディネーターの足立

購入したのは、メルカリで出品されていたセンダン材のローテーブル

実はこれ、材木屋さんが運営する公式ショップの出品で、プロの手による無垢材家具が手に入るという、ちょっとした“穴場”だったのだそうです。

「実際に丹波篠山まで足を運んで、一枚板のテーブルを探したこともあったんですが、そのときはなかなかしっくり来るものがなくて。材の種類には特にこだわらず、“色味と形”のバランスを重視していたので、オンラインでこれを見つけたときは直感で決めました」。

届いたローテーブルは、センダンの明るい色合いとやわらかな木目が印象的。日が差し込む場所に置いているため、「少しずつ色が変わってきて、それがまたいいんですよね」と経年変化も楽しんでいるよう。

「コップを直に置くと輪ジミがついてしまうので、コースターを使って丁寧に扱っています。無垢材だからこそ、ちゃんと手をかけたくなるというか…暮らしへの意識も変わりました」。

植物が好きで、家にはグリーンがたくさん。飾っている棚も無垢材で作られており、「少しずつ“味”が出てくる感じが好きなんです」とお家へのこだわりも語ってくれました。

賃貸暮らしでありながら、「だからこそ、こだわりたい!」と語る足立。寸法を自分で測り、図面を描いて家具を考え、見積もりも出すという徹底ぶりは、まさに“職業病”です。

「今もステンレス系の無骨なスタンドライトを、もう1年以上探してるんです」と話すその姿からは、暮らしの細部にまで目を向けて丁寧に暮らしを楽しんでいる様子が伝わってきました。

「名作の“シャレ感”が、暮らしにリズムをくれる」

– ジョージ・ネルソン アイクロック(2〜3年前に購入) 現場監督:野田

「これは“時計”としてというより、“作品”として選んだんです」。

そう語るのは、現場監督の野田。リビングの真ん中に飾っているのは、ジョージ・ネルソンが1957年にデザインした《アイクロック》。アートピースのような佇まいと、ウィットの効いたデザインが魅力の名作です。

「デザインの学校に通っていた頃、この時計を“名作”として学びました。それ以来、ずっと欲しかったんです」。

実用性を超えて、空間にどんなリズムや表情を加えられるかを重視して選んだ一品。直線や面が多くなりがちな家自体に、丸みを帯びたアイテムが空間の印象をやわらげてくれる存在でもあります。

「ポップなものやミッドセンチュリー、レトロフューチャーな雰囲気が好きで、ちょっとした“遊び”を感じられるデザインに惹かれます」と語る野田。

インテリア好きが高じて、アルネ・ヤコブセンのセブンチェアや、ヴァーナー・パントンのパンテラスタンドなど、お気に入りを少しずつ集めてきたそうです。

「家もDIYでペンキを塗ったりしているんですよ」と笑いながら、野田は続けます。最初はアクタスやヤマギワなど、インテリアの王道から始まり、少しずつ自分らしい“芯”ができていったのだとか。

「この時計を見るたびに、やっぱり買ってよかったと思います。暮らしの中に“好き”があるって、ふとした瞬間に気分が上がるんですよね」。

名作の“シャレ感”が、暮らしにリズムをくれる。そんな一品です。

そんな皆さんに、「モノを丁寧に選ぶこと」や「こだわりを持つこと」が、どんなふうにお客様の暮らしに価値を届けていると思うかを、改めて聞いてみました。

寺下:「こだわり」と言っても、自分で言うほど大それたものではなくて、意識しているのは本当に些細な部分なんです。むしろ、お客様の方がずっとしっかりとしたこだわりを持っておられて、私のほうが学ばせていただくことの方が多いくらいで…。

自分のこだわりを“武器”にしようとすると、かえって視野が狭くなってしまう気がしていて。だからこそ、自分がどれだけ意識していたとしても、それをお客様がどう受け取ってくださるかの方が大切だと思うんです。

なので、自分からアピールするというよりは、自然に伝わるように心がけています。

野田:お客様から、インテリアについて相談されることもたまにあります。私が普段大事にしているのは、建物としての性能はきちんと担保しつつ、そこに“楽しさ”や“心地よさ”といった感覚的なものをどう加えていけるかということですね。悩むことも多いですが、それも含めて楽しいと感じています。

丁寧に選ぶことで、モノが長く使えたり、自然と大事にしてもらえたり、リラックスできる空間が生まれたり……そういうところに、静かに価値が宿っていくんじゃないかなと思います。

足立:私は植物が好きで、少し知識もあるので、その目線を活かしたご提案をすることもあります。自分が好きなことが仕事に繋がっているからか、無意識のうちに“こだわり”が出ているのかもしれません。

でも、それを声高に言うことはなくて。大切にしているのは「お客様がふと帰りたくなるような空間」をつくること。言葉で伝えるよりも、空間から自然と感じていただけたら嬉しいなと思っています。

皆さんのお話を聞いていると、「こだわり」というのは決して押しつけるものではなく、丁寧な積み重ねが自然と伝わっていくものなんだと感じました。

目立たないけれど確かに宿る、そんな想いが、住まう人の心にそっと届いているのかもしれません。

住まう人がふとした瞬間にほっと落ち着ける——そんな余白として、暮らしの中に確かに息づいている。

今回の対談を通じて、ものづくりの現場にある“誠実なもの選びへの美意識”に、そっと触れさせてもらった気がしました。

次回のコンテンツ記事は6/2(月)に「建築を愛するふたりが語る、“記憶に残る場所”」を公開です。お楽しみに。