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2026/11/02

vol.41 暮らしは、設計図のその先で。

一年前、まだ完成前だった一棟の家。
それは、ひかり工務店の設計士・原田が、自分自身の暮らしのために設計した住まいでした。

以前のインタビュー「CONTENTS vol.6 “住まい手”になった設計士の挑戦」では、自然に囲まれた土地を選んだ理由や、窓から見える景色へのこだわり、家族と過ごす時間への想いを聞きました。

そこには、設計士として培ってきた経験と、自らが住まい手になるからこその視点がありました。

それから一年。
あのとき図面の上で描かれていた暮らしは、今、日常の風景になっています。

実際に住んでみて感じたこと。想像していた通りだったこと。そして、暮らして初めて気づいたこと。

今回は、住まい手となって一年を迎えた原田に、改めて話を聞きました。

季節が、家の表情を変えていく。

「やっぱり、庭の変化が一番楽しいですね。」

住み始めてからの一年を振り返ってもらうと、最初に話してくれたのは庭のことでした。

春には花が咲き、初夏には鮮やかな新緑が広がる。
デッキの周りにはハーブやイチゴ、ブルーベリーなどが植えられ、季節が進むと実をつけます。
秋には目の前の山が色づき、冬には雪景色が広がることも。
雨の日には山に薄く霧がかかり、その霧がゆっくりと流れていく様子も美しいのだそうです。

「一年を通して、一番好きな景色はどれですか?」
そう尋ねると、原田は少し考えてから答えました。

「どの季節もきれいなので、一番を選ぶのは難しいですね。」


以前のインタビューで原田が大切にしていたのは、窓から見える景色でした。

人工物の存在をできるだけ感じさせず、自然の中に身を置いているような空間をつくること。

その考えは実際の暮らしの中でも、変わらず息づいています。
ただ、設計の段階では見えていなかった楽しみもありました。

どの植物が、いつ花を咲かせるのか。
どんなふうに葉の色が変わるのか。

そうした小さな発見が、一年の中にいくつもあったといいます。
建築によって切り取られた風景が、季節によって少しずつ表情を変えていく。
完成したときが最も美しいのではなく、時間とともに違う美しさが生まれていく。

その変化もまた、この家で暮らす楽しみのひとつになっていると原田はいいます。

光を抑えると、時間の流れが変わった。

以前はマンションで暮らしていた原田。

新しい家に住み始めて、日々の過ごし方で最も変わったことを尋ねると、少し意外な答えが返ってきました。

「夜、早く眠くなるようになりました。」

その理由のひとつが、照明計画にあります。
原田が自邸で実践したのは、空間全体を均一に明るくするのではなく、必要な場所に必要な光を置き、明るさと暗さに差をつけること。

例えば、ホテルやレストラン。
落ち着いた空間では、すべてが明るく照らされているわけではありません。
食事をする場所や手元には適度な光があり、周囲には心地よい暗さが残されています。

「リラックスできる明るさって、やっぱりあると思うんです。」

これは普段、お客様にも提案している考え方です。
自邸では、その明暗をより意識的につくったことで、夜になると自然に眠くなり、朝も早く目が覚めるようになったといいます。

家の設計が変われば、そこで過ごす人の時間の使い方も変わる。

照明という建築の一要素が、日々の生活リズムにまで影響していることが興味深く感じられました。

いちばん長く過ごすのは、ダイニング。

家の中のお気に入りの場所について、改めて尋ねてみました。

「やっぱり、ダイニングにいる時間が長いですね。」

食事をするだけでなく、お酒を飲んだり、庭を眺めたり。
夜には庭がほのかに照らされ、昼間とはまた違った景色を楽しむことができます。
ひかり工務店の家具事業部が手がけた椅子も座り心地がよく、長い時間座っていても疲れにくいのだそうです。

原田はダイニングで過ごし、奥様はリビングでくつろぎながら、プロジェクターで映像を楽しむこともあるといいます。

同じ空間にいながら、それぞれが好きな時間を過ごす。
そして、ときには一緒にお酒を飲む。
必ずしも同じことをしていなくても、心地よく時間を共有できる。

そんな距離感も、この家の居心地のよさにつながっているように思います。

そして一緒に暮らす二匹の猫も、家の中で思い思いの場所を見つけているそうです。

人が移動すると猫たちもついてきて、少し距離を保ちながら、それぞれが居心地のよい場所でくつろぐ。

人にも猫にも、お気に入りの居場所がある。

設計図には描ききれない、暮らしの風景です。

日常の中に、非日常をつくる。

原田がこの家を建ててよかったと感じる瞬間。
そのひとつが、外で食事をするときだといいます。

「最初にやったのは、外でさんまを焼くことでした。」

七輪でさんまを焼く。
焼き鳥や焼肉を楽しむ。
庭に出て、自然を感じながら食事をする。

それだけのことが、普段の食卓とはまったく違う時間になります。

そしてもうひとつ、この家ならではの楽しみがサウナです。

もともとサウナが好きだった原田。
以前は施設へ出かけていましたが、自宅にサウナを設けたことで、その楽しみ方も変わりました。

外のサウナでは、気持ちよく整ったあとも、帰宅するための移動があります。
けれど家なら、サウナに入ったあと、ゆっくり食事を楽しみ、眠くなればそのまま寝ることができる。

その一連の時間を、自分の家で完結できることが何よりの贅沢なのだそうです。

最近では、奥様も以前より一緒にサウナを楽しむようになったといいます。
夫婦で過ごす時間にも、これまでとはまた違った楽しみが生まれていると話してくれました。

また、この家は最初から、自分たちだけでなく、誰かを招くことも考えて設計されていました。
友人や両親が訪れ、一緒に食事をしたり、サウナに入ったり。ゲストルームに泊まってもらうこともあります。

「普通は、ホテルやキャンプ場に、日常では感じられないことを体験しに行くじゃないですか。」

自然を眺めることも、外で食事をすることも、サウナでくつろぐことも。旅先で味わうような楽しさを、普段の暮らしの中に取り入れる。

実際、この家に住み始めてからは、以前よりキャンプへ行く回数も、外食をする機会も減ったそうです。

どこかへ出かけなくても、家にいたいと思える。

それは、この住まいが持つ、ひとつの豊かさなのかもしれません。

当たり前を疑う、小さな実験。

原田の自邸には、一般的な住宅ではあまり見かけない設計も取り入れられています。

例えば、浴室には扉がありません。
ランドリールームとウォークインクローゼットも、ひとつの空間にまとめています。

一見大胆にも思えるその設計には、原田自身の家事の経験から生まれた、合理的な理由がありました。

浴室の扉をなくした理由は、掃除の手間を減らすため。

普段から自ら家事に取り組む原田は、浴室の扉まわりが汚れやすく、掃除もしにくいことを実感していました。

それなら、そもそも扉をなくしてしまえばいいのではないか。

もちろん、家族からは心配する声もあったそうです。
けれど一年間暮らしてみて、扉がなくても困ることはなかったといいます。

ランドリーとクローゼットを一体にした空間も同様です。
湿気が気になるのではないかという懸念もありましたが、実際には大きなストレスを感じることなく使えているそうです。

「自分の家だから、できることってあるじゃないですか。」

誰にでも勧められる設計とは限らない。
それでも自ら試して、実際の使い心地を確かめることには意味があります。

設計士としての知識に、住まい手としての実体験が加わる。

この家は、原田にとって暮らす場所であると同時に、新しい可能性を確かめる場所にもなっているのだと感じました。

経験の先に、また新しい設計がある。

これまで数々の住まいを手がけてきた原田。
自邸にも、長年の設計経験で培ってきた知識や考え方が随所に取り入れられています。

例えば、床や壁に使用する素材。
さまざまな素材に触れ、実際の建築で使いながら、その質感や空間との相性を確かめてきました。
そうした経験の積み重ねが、今回の自邸における素材選びにもつながっているといいます。

そして、この一年の暮らしを通して得た経験もまた、これからの家づくりに生かしていきたいと話します。

では、今もう一度、自分の家を設計するとしたら。

原田が思い描くのは、今の家をもう一度つくることではなく、まったく違う発想から始める家づくりでした。

例えば、今回のような山に囲まれた土地ではなく、海辺だったら。
そこでどんな窓をつくり、どんな景色を取り込むのか。

土地が変われば、そこにふさわしい建築も変わります。

これまでの経験を大切にしながらも、ひとつの答えにとどまらず、その場所ならではの可能性を探り続ける。

原田の話からは、住まい手としての新たな経験を得た今も、変わらず建築への探究心を持ち続けていることが伝わってきました。

家は、住み始めてからも育っていく。

この家で、これからやってみたいことも尋ねました。

「外に水風呂をつくりたいですね。」

サウナのあとに使える屋外の水風呂。さらに、寝転びながら湯につかれる寝湯のようなものも考えているそうです。

そして、前回のインタビューでも話していたピザ窯。
こちらも、まだ実現していない楽しみのひとつです。

家は完成した瞬間に、すべてが決まるものではない。
住みながら好きなものを加えたり、暮らしに合わせて変化させたり。

「家って、そうあるべきだと思うんです。」

その言葉が印象に残りました。

設計士がつくった家だから、最初からすべてが整っている。
そう考えてしまいそうですが、原田の話を聞いていると、むしろ逆のようにも思えます。

設計でできることを考え抜いたうえで、その先には、住む人自身がつくっていく時間がある。

完成した建築の中で、暮らしはまだ続いていくのです。

住まい手になって、伝えられること。

最後に、この一年の経験を通して、これから家づくりをする方へ伝えたいことを聞きました。

「生活動線とか、いかに効率よく暮らせるかっていうのも、もちろん大事なんです。」

そう前置きしたうえで、原田は続けました。

「でも、それだけで家をつくるのは、すごくもったいないなと思います。」

掃除がしやすいこと。移動がスムーズなこと。家事の負担が少ないこと。どれも、暮らしに欠かせない大切な要素です。

けれど、その先にある楽しさや、心がほどけるような時間にも目を向けてほしい。

それが、実際に自分の家で一年を過ごした原田の実感でした。

自らが設計した家に住んでみたことで、お客様に伝えられることも、社内のスタッフに伝えられることも増えたといいます。

今回のインタビューを通して印象に残ったのは、原田が自邸について話すとき、設計の話と日々の暮らしの話が、ごく自然につながっていたことでした。

窓の向こうに広がる景色も、夜の照明も、ダイニングの椅子も、庭で焼く一匹のさんまも。

ひとつひとつは違う話のようでいて、そこには共通する考え方が見えてきます。

それは、家を単に生活するための場所としてではなく、そこで過ごす時間そのものを豊かにする場所として捉えること。

そんな原田の家づくりに対する考え方が、日々の暮らしの中にも表れているのだと感じました。

以前のコンテンツ取材では、まだ形になっていない住まいについて、設計士としての想いを聞きました。
そして今回、その想いが暮らしの中でどのように息づいているのかを知ることができました。

設計図の上で思い描いた未来が、日々の何気ない時間となって積み重なっていく。
その経験を、原田はこれからの住まいづくりへとつなげていきます。

家づくりは、完成が終わりではない。

原田の一年を通して、そのことの意味を、改めて感じたインタビューでした。

次回のコンテンツは、11/16(月)です。どうぞお楽しみに。