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2026/06/08

vol.31 団地に余白をつくる、ひかり工務店の新しい挑戦

古い団地には、どこか懐かしい時間が流れています。

階段を上がる足音、窓の外に見える緑、建物と建物のあいだに生まれる余白。
かつて多くの人の暮らしを受け止めてきた場所には、今もなお、静かな生活の気配が残っています。

一方で、「古い」「寒い」「暗い」「使いづらい」。
団地という言葉に、そんなイメージを重ねる人も少なくありません。

今回、私が取材したのは、団地プロジェクトに関わった4人。
営業の清水佑樹、設計を担当した足立、企画の清水結花、工務の村瀬です。

それぞれの言葉をたどっていくと、このプロジェクトは、単に古い団地をきれいにする取り組みではないことが見えてきました。
団地という場所に残る余白を見つめ直し、そこにこれからの暮らしを重ねていくこと。
そして、ひかり工務店の家づくりを、これまでとは少し違う形で届けていくこと。

この団地プロジェクトは、住まいをつくる人たちにとっても、新しい挑戦でした。

団地という、まだ見ぬ選択肢

清水佑樹がまず語ったのは、このプロジェクトが持つ少し特殊な立ち位置でした。

これまでひかり工務店が取り組んできた注文住宅やマンションリノベーションとは違い、このプロジェクトの中心にあったのは、「団地を再生する」という視点です。
美しい空間をつくることだけが目的ではありません。限られた予算の中で、地域の人にも届きやすい住まいをつくること。そして、団地という選択肢に新しい価値を与えること。

清水佑樹自身も、最初から団地に明るい印象を持っていたわけではありませんでした。
「古い」「寒い」。そんな一般的なイメージがあり、そもそも団地をリノベーションできること自体に驚きがあったといいます。

けれど、知っていくほどに見えてきたのは、団地が持つ独特の豊かさでした。
広場があり、公園があり、建物だけで完結しない暮らしの風景がある。団地は、ひとつの建物というより、小さなまちのような存在です。

そのまちに、ひかり工務店ならどんな暮らしを重ねられるのか。
プロジェクトは、そこから始まっていきました。

水無瀬というまちの、静かな熱

今回の舞台は大阪府三島郡に位置する水無瀬。

そしてこの水無瀬という場所にも、4人はそれぞれ違う印象を持っていました。

JR島本駅や阪急水無瀬駅が使いやすく、周辺には自然もあります。大きな商業地のような派手さはないけれど、コーヒー店や個人店、少し感度の高い人が惹かれそうなお店が点在している。
清水結花や足立の言葉からは、水無瀬が持つ静かな魅力が伝わってきました。

一方、村瀬は「都会と田舎の狭間」という言葉でこの場所を表現していました。
幹線道路から少し入ると、音が遠ざかり、暮らしの速度が少し落ちる。車や自転車があれば日々の買い物にも困らない。都会の利便性をすぐそばに求める人ではなく、自分たちの暮らしやすさを大切にしたい人に合う場所なのではないか、と話していました。

その言葉を聞いて、水無瀬の輪郭が少しはっきりしたように感じました。
便利さだけで測るのではなく、静けさや余白も含めて暮らしを選ぶ人に、この場所は似合うのかもしれません。


まだ出会っていない誰かを想像する

今回のプロジェクトで印象的だったのは、住み手の人物像をチームで細かく話し合っていたことです。

注文住宅であれば、目の前にお客様がいます。
好きなもの、暮らし方、家族構成、これから叶えたいこと。対話を重ねながら、その人のための住まいをつくっていきます。

けれど今回は、まだ出会っていない誰かに向けた住まいです。だからこそ、チームは「どんな人に届けたいのか」を丁寧に想像していきました。

名前、職業、年齢、趣味、年収、乗っている車の車種まで。
足立は、まだ存在しない住み手を想像しながら空間を考えることは、いつもとは違う入口で、ターゲット像を思い描く時間が新鮮で面白かったと話していました。

清水結花もまた、チームでターゲットを共有できたことが、その後の企画や発信のしやすさにつながったと話していました。誰に届けるのかが見えているから、言葉がぶれない。写真の見せ方も、文章の温度も、同じ方向を向くことができる。

住まいは、ただ形をつくれば届くわけではありません。
誰の暮らしを思い描くのか。
その最初の問いが、このプロジェクトの軸をつくっていたように感じます。

足すのではなく、引くことで生まれる余白

水無瀬団地の住まいを語るうえで、欠かせない言葉があります。
それが「余白」です。

清水佑樹は、この住まいを「自分の好きがある人に合う」と表現していました。
内装はシンプルに整えられ、住む人によって表情を変えられる余地があえて残されています。好きな器を置く。椅子をひとつ足す。本を並べる。コーヒーを淹れる。
空間が完成しすぎていないからこそ、住む人の感性が入り込むことができます。


足立の設計にも、その考え方が通っています。今回の住まいは、予算と構造に制約があり、団地特有の壁式構造によって大きく間取りを変えられない部分もありました。だからこそ、ただ足すのではなく、必要なものを見極めて“引き算”しながら整えることが求められました。

一方で、引くことは簡単ではありません。限られた条件の中で、何を残し、どこに手をかけるのか。既製品を選べばコストは抑えられますが、それだけではひかり工務店らしさが薄れてしまう。足立が悩んだのは、そのバランスだったといいます。

その中で足立が大切にしたのは、造作キッチンやダイニングテーブルといった、暮らしの中心になる場所です。器を並べる風景、食事をする時間、誰かと向かい合う空気。そうした日常のシーンを思い描きながら、限られた条件の中でも残したい要素を選び取っていきました。

便利さや効率だけではなく、豆を挽いてコーヒーを淹れるような“少し手間のある時間”も楽しめる余白。それは、何もない空間ではなく、暮らしが入り込むために残された場所でした。

届け方にも、葛藤がある

清水結花が企画として向き合っていたのは、この住まいの価値をどう届けるかということでした。

団地という選択肢は、ひかり工務店のこれまでのイメージとは少し違います。
注文住宅やこだわりの家づくりに興味を持つ人たちだけではなく、もっと広い層に届く可能性がある。清水結花はそこに、このプロジェクトの大きな意味を感じていました。

一方で、伝え方には難しさもありました。
団地らしい親しみやすさ、手に取りやすさを出しながら、ひかり工務店らしい世界観や奥行きは損なわないこと。
カジュアルにしすぎると、込めた思いが薄くなってしまう。けれど、丁寧に伝えようとしすぎると、少し遠いものに見えてしまう。

その間で、どんな言葉を選ぶのか。
どんな写真で、どんな空気を伝えるのか。

企画の仕事は、完成したものをただ知らせることではありません。
設計が考えた余白、営業が見ている届け先、工務が支えた品質。そのすべてを受け取り、まだこの住まいを知らない人へ手渡していくことです。

清水結花の話からは、発信の奥にある繊細な調整が見えてきました。

現場で、思いを確かなものにする

村瀬の話には、現場を知る人間ならではの実感がありました。

団地リノベーションは、マンションリノベーションとは違う難しさがあります。
壊せない壁がある。間取りを自由に変えられない。古い建物の既存部分を残しながら、新しくつくる部分を合わせていかなければならない。

今回も、すべてを壊してつくり直すのではなく、残せる部分を見極めながら進めていく必要がありました。
ただ残すのではありません。残した部分が本当に使えるのか、まっすぐなのか、新しい仕上げときちんと合うのか。現場で確認し、判断し、調整を重ねていく。

そこには、図面だけでは見えない仕事があります。
さらに、古い団地だからこそ、断熱性能を整えることも大切でした。見た目の美しさだけではなく、住み心地を支えること。寒さや古さといった団地のネガティブな印象を、暮らしの質としてきちんと変えていくこと。

村瀬は、プロジェクトにおける工務の役割を「みんなの考えを形にすること」だと話していました。
設計のこだわり、企画の言葉、営業が見ている住み手の姿。それらを、現場で暮らせる住まいへと落とし込んでいく。

静かですが、とても大きな役割です。


遠回りのようで、いちばん確かなつくり方

取材を終えて印象に残ったのは、4人が同じ住まいを見ながら、それぞれまったく違う角度から考えていたことでした。

清水佑樹は、営業として設計・企画推進部・工務の視点をつなぎ、チームの方向性を整える。
足立は、限られた条件の中で、住む人の好きなものが映える余白を設計する。
清水結花は、空間に込められた価値を、言葉と見せ方で届けていく。
村瀬は、建物の癖を読み取りながら、設計の意図を現場で形にしていく。

役割は違っていても、それぞれが別々の場所を見ていたわけではありません。
誰に届けるのか。どんな暮らしを残すのか。どこにひかり工務店らしさを宿すのか。
その問いを、チームで何度も持ち寄りながら、この住まいは少しずつ輪郭を持ちはじめました。

部署を越えて話し合うことは、効率だけを考えれば遠回りかもしれません。けれど、その遠回りがあったからこそ、この住まいには一本の軸が通ったのだと思います。

団地でも、ここまでできる

水無瀬団地プロジェクトは、古い団地を新しくするだけの仕事ではありませんでした。

団地に残る価値を見つめ直すこと。
今の暮らしに合わせて、性能や使い勝手を整えること。
そして、住む人が自分らしい時間を育てていける余白を残すこと。

「団地でも、こんな暮らしができるんだ」
「ここなら、自分たちらしい時間をつくれそう」

実際に見に来た人がそう感じて帰ってくれたら。
4人の話を聞きながら、このプロジェクトに込められた願いは、そこにあるのだと思いました。

古い建物には、まだ使えるものがあります。
古いまちには、まだ見つけられていない魅力があります。
そして団地には、これからの暮らしを受け止める余白があります。

水無瀬団地の一室に生まれたのは、完成された正解ではなく、住む人によって少しずつ育っていく住まいでした。
その余白こそが、ひかり工務店がこのプロジェクトで届けようとした、新しい暮らしのかたちなのかもしれません。

次回のコンテンツは6/22(月)です。お楽しみに。