2026/07/27
vol.34 暮らしの輪郭を、家具で整える
家をつくるとき、私たちは間取りや素材だけでなく、その先にある暮らしの風景を思い描きます。
朝、キッチンに立つ時間。洗面台の前で身支度をする時間。リビングでくつろぐ時間。
キッチンや洗面、収納など、暮らしの中で毎日使う場所を、その家に合わせてつくる。
造作家具は、そうした日々の場面に寄り添いながら、一つひとつ形づくられていくものです。
今回は、ひかり工務店の家具事業部で、マネージャーとして部署を支えながら、自らも職人としてものづくりに向き合う艸島に話を聞きました。
その言葉から見えてきたのは、造作家具の自由さと、目には見えにくい部分にまで宿る職人の美意識でした。

料理人から、空間をつくる人へ
艸島の歩みは、少し意外な場所から始まります。
若い頃に経験したのは、フランス料理の世界。
その後、知人との縁をきっかけに、アパレル店舗のデザイン・設計・施工を手がける会社へ入りました。
料理人から、店舗づくりの世界へ。
一見するとまったく違う仕事のように思えますが、艸島はその変化を大きな転身として語るわけではありません。
「やっていく中で、興味が生まれてくる感じですね。」
専門の学校で学んだのではなく、現場で一つひとつ覚えていく。
図面を描くこと、素材を扱うこと、空間を組み立てること。知識よりも先に手を動かし、目の前の仕事に向き合う中で、少しずつ感覚と技術を身につけていきました。
当時手がけていたのは、全国に展開されるアパレルブランドの店舗。
その中には、各地に広がっていく空間の“最初の一店舗”となるものもありました。自分たちがつくった店舗を、全国の施工会社が見に来る。見本となる空間をつくる仕事には、ものづくりの緊張感と誇りがありました。
その後、艸島は独立します。
最初は工場もなく、車に道具を積み、現場を走るところからの始まりでした。店舗の内装や施工に携わる中で、服を並べる棚やカウンター、空間の印象を決める什器など、空間に合わせたものをつくる仕事も担っていきます。
やがて工場を構え、自分たちの手で家具や什器をつくる体制を整えていきました。
そこから少しずつ、仕事の軸は店舗から住宅へ。キッチンや洗面、収納など、暮らしの中で使われる家具を、その家に合わせてつくる仕事へと広がっていきます。


ひかり工務店との出会いも、そうした積み重ねの先にありました。
ひかり工務店には、家づくりの中で家具まで一貫して考えられる体制をつくりたいという思いがありました。空間に合わせて家具をつくり、暮らしに合わせて納めていく。艸島がこれまで培ってきた経験は、その考え方と自然に重なっていきます。
完成した住まいに家具を入れるだけではなく、設計の段階から家具を考えられること。
建築と家具が別々のものではなく、ひとつの暮らしとしてつながっていくこと。
そこに、艸島がひかり工務店で家具づくりに向き合う意味がありました。
空間をつくることから始まり、そこに必要なものを自分たちの手でつくるようになり、やがて暮らしそのものに関わる家具へ。
艸島の家具づくりは、ひとつの道をまっすぐ進んできたというより、現場の中で必要とされるものに向き合い続ける中で、自然と深まっていったものなのかもしれません。
建築に、家具を合わせるという自由
艸島が考える造作家具の一番の魅力。
それは、建築に家具を合わせられることだといいます。
既製品の場合、家具やキッチンのサイズに合わせて、空間を調整することがあります。
一方で造作家具は、その家の寸法や間取り、暮らし方に合わせて、家具そのものをつくることができます。
「建築側が自由に設計した家の中に、そこに合ったものを納められる。それが造作の一番の魅力だと思います。」
間口をどう取るか。高さをどうするか。収納量をどう考えるか。
キッチン、洗面、収納、ソファ。造作でつくるものは一つひとつ、その住まいに合わせて形づくられていきます。
特にひかり工務店のように、家づくりの途中から家具事業部が関わることができる環境では、できることの幅が広がります。
まだ形になっていない住まいに対して、設計やデザイナー、工務と連携しながら、空間と家具を同時に考えていく。
その過程があるからこそ、家具は後から置かれるものではなく、住まいの一部として計画することができます。
造作家具は、単に寸法を合わせるだけのものではありません。
建築に合わせて家具を考えることで、その家の間取りや動線、使う人の暮らし方にまで自然と寄り添っていく。
艸島の話からは、造作家具が持つそんな自由さが見えてきました。


手触りに宿る、仕上げの思想
艸島の話の中で印象的だったのが、「仕上がり」と「手触り」へのこだわりです。
木の家具は、見た目だけで完結するものではありません。
扉を開けるとき、天板に手を置くとき、引き出しに触れるとき。暮らしの中で、家具は毎日のように人の手に触れます。
仕上げ方によっても、その感触は変わります。
表面に膜をつくって保護する仕上げもあれば、木そのものの質感を手で感じやすい仕上げもある。艸島が見ているのは、仕上がった瞬間の美しさだけではありません。
使い続けた先に、手触りがどう変化していくか。
水分を吸ったときに、木の表面がどう動くか。
日々の暮らしの中で触れ続けても、心地よさが続くか。
触れたときにすっとなめらかで、使うほどに粗さが出にくいように整える。
そのためのひと手間に、職人の技術が表れます。
目で見ただけではわからない。
けれど、触れた瞬間に違いが伝わる。
造作家具の価値は、そうした静かな部分にも宿っています。
木目を読み、表情を整える
木材を扱うとき、艸島が大切にしていることのひとつが、木目の並べ方です。
同じ樹種でも、板には一枚一枚異なる表情があります。
色の濃淡、木目の強さ、流れ方、節の入り方。それをどの順番で並べるかによって、家具全体の印象は大きく変わります。
ただ同じような板を揃えて並べれば、美しく見えるわけではありません。
強い木目と穏やかな木目をどう混ぜるか。色の差をどうなじませるか。全体として自然に見えるバランスを、職人の目で探っていきます。
「正解はないと思います。」
艸島はそう話します。
だからこそ、そこには作り手の感覚が表れます。誰がつくるかによって、同じ素材でも仕上がりの表情は変わっていくのです。
家具づくりは、図面通りに寸法を合わせるだけの仕事ではありません。
素材の個性を見極め、その家にふさわしい表情へと整えていく仕事でもあります。


見えないところで、住まいを支える
ひかり工務店の家具づくりは、家具事業部だけで完結するものではありません。
設計やデザイナーから依頼を受け、見積もりを出し、工務と現場の寸法や搬入経路、取り付けの手順を確認する。
どのタイミングで納めるのか。どうすれば美しく、長く使える形になるのか。現場とのすり合わせも、重要な仕事のひとつです。
デザインを考える人は、意匠性を大切にします。
一方で、家具をつくる職人は、強度や耐久性、施工後の使われ方まで考えます。
その両方をどう成立させるか。見た目の美しさを崩さず、きちんと長く使えるものにするために、裏側では何度も検討が重ねられています。
造作家具は、華やかに見える部分だけでできているわけではありません。
寸法を読む目、納まりを考える力、現場と対話する時間。
そうした見えない積み重ねが、暮らしの中で自然に使える家具を支えています。
技術を、次の手へつないでいく
艸島が今、仕事の中で大きなやりがいとして語ったのが、人を育てることでした。
かつては、自分の手で何をつくるか、自分の仕事をどう育てていくかを考えてきた艸島。
けれど、家具事業部のマネージャーとなった今、その視線は次のつくり手へと向いています。
若い職人たちが経験を重ね、自分の手で考え、つくれるようになっていくこと。
その力が積み重なることで、家具事業部そのものも少しずつ強くなっていく。
艸島にとって、人を育てることは、部署を支えるためだけの役割ではなく、自身の仕事のやりがいにもつながっています。
職人の仕事は、手の技術だけではありません。
木を見る目、仕上げへのこだわり、納まりを考える力、そして長く使われるものをつくる責任。
そうした感覚は、言葉だけで伝えられるものではなく、日々の現場の中で少しずつ受け渡されていくものです。
自らも職人として手を動かしながら、次のつくり手を育てていく。
艸島の姿からは、家具づくりの技術を未来へつないでいこうとする、静かな覚悟が感じられました。


暮らしの背景をつくる家具
造作家具は、ただ高価なものでも、特別な人だけのものでもありません。
その家の寸法に合わせること。
使う人の動きに合わせること。
素材の表情を見極め、手触りまで丁寧に整えること。
そして、設計やデザイナー、工務と連携しながら、住まいの一部として形にしていくこと。
一つひとつの工程の中に、見えない手間と、職人のまなざしがあります。
艸島の話を聞いていると、家具は単なる道具ではなく、暮らしの背景をつくる存在なのだと感じます。
毎日触れるものだからこそ、美しく、心地よく、長く寄り添えるものを。
造作家具の奥には、その家に暮らす人の時間を思いながら形にしていく、静かなものづくりの姿勢が息づいていました。
次回のコンテンツは8/10(月)です。どうぞお楽しみに。

